テレビで見ていただけの大分が、「また行きたい場所」に変わる──旅行に無縁だった元高校教師が、おてつたびの“偶然の出会い”で見つけた旅の面白さ

定年退職後のセカンドライフをどう過ごすか。

同じ環境で「再雇用」として働き続ける選択肢が一般的ななかで、あえて一度キャリアをリセットし、全く新しい世界へ飛び込んだおてつたび参加者の野田正幸さん(63歳)。

公立高校の数学・情報の教員として38年間、がむしゃらに教壇に立ち続けてきて、退職後に始めた「おてつたび」にすっかり魅了され、おてつたび参加回数は20回を超えます。

北は北海道・利尻島から南は鹿児島県・屋久島まで、まさに全国津々浦々を旅してきた野田さんですが、そのなかでも「大分での暮らしと観光が、とにかく最高だった!」と語ってくださったのが、2026年の年明けに滞在した由布院での2週間です。

今回は、旅行にほぼ無縁だった野田さんが「旅」にのめり込んだ理由や、その中で見つけた面白さ、楽しみ方、そして、魅了された大分・由布院でのリアルな暮らしについて、お話を伺いました。

目次

コロナ禍を機に、38年の教員生活に一区切り。再雇用ではなく「リセット」を選んだ理由

── 38年間もの長い間、高校の先生をされてきたのですね。退職後に再雇用ではなく、おてつたびの道を選ばれたのはなぜですか?

野田さん: 教員生活ではずっと担任を持っていたので非常に濃い毎日でした。ただ、退職を意識し始めた時期に新型コロナウイルスの流行があり、ネットワーク担当だった私もオンライン対応に追われたんです。それまでは「教室でいかに分かりやすい授業をするか」がいい教員だと思っていましたが、動画配信などを手探りで進めるなかで、「果たしてこのまま授業を続けていていいのかな」と、これまでの教え方に少し疑問を持つようになりました。

そのネットワーク業務が一段落したとき、教員としての仕事に自分の中で「一区切りついたな」という感覚があって。以前からテレビで見て気になっていた「おてつたび」で、そろそろ何か違うことをやってみようかな、と思い応募しました。

当初は、1〜2年ほどおてつたびをしたらまた教員の現場に戻ろうとも考えていたんですが、実際に始めてみたら楽しすぎました。教員に戻るどころか、「もうちょっとこの生活をやってみるか」と、今でもおてつたびを続けています(笑)。

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旅行と無縁だった野田さん。今では北は北海道・礼文島、南は鹿児島・屋久島まで

人気で倍率が高くても気にしない。1ヶ月の長期滞在で「その土地の日常」に溶け込む

── 野田さんはこれまでに100回以上応募してマッチングが20回とのことですが、おてつたびは人気の募集だとかなり応募が殺到して競争率が高くなりますよね。なかなかマッチングが成立しないとき、モチベーションが下がってしまう時期などはなかったのですか?

野田さん: もちろん、最初はなかなかマッチングしなくて「やっぱり年齢的に厳しいのかな」と少し気が重くなる時期もありました。でも、おてつたびの人気が出て参加者がすごく増えていることも知っていましたし、「10個申し込んで7〜8割マッチングしないのは当たり前だ」と割り切るようになってからは楽になりましたね。

マッチングしなかったことを気に病むより、マッチングしてくれた宿とのご縁を大切にしよう、と。

むしろ、今は「ここに行きたい」と細かく狙い撃ちするのではなく、たくさん応募しておいて、マッチングが決まった瞬間に「さあ、ここへはどうやって行くんだろう?」とスマホで交通手段を調べるプロセスそのものを楽しんでいます。

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電車や新幹線だけでなく、飛行機、夜行バス、船などいろんな交通手段を使いこなす

年中忙しい由布院での日々。慣れない接客と、意外なところで活きた韓国語

── 2026年1月には、大分県由布院の「御宿 由府両築」でお手伝いをされました。人気の温泉地ですが、お仕事はいかがでしたか?

野田さん: まさか自分が由布院の募集でマッチングするとは思っていなかったので、決まったときは驚きました。
由府両築は全7室の小さなお宿ですが、インバウンドの観光客、特に韓国からの個人旅行客の方が多く、毎日ほぼ満室の状態でした。業務はシフト制で、客室清掃や朝食対応、夕食のバッシングなど、次から次へとやることがある忙しい職場でしたね。

ただ、私はもともと体力に自信がありましたし、1日の勤務時間も8時間を超えることはなかったので、「きつい」とか「辛い」と感じることはありませんでした。むしろ、心地よく体を動かしながら楽しんで取り組めました。

御宿 由府両築 由布院・湯の坪街道に面した全7室の小さな湯宿「由府両築」で、清掃業務のお手伝い | 求人・旅バイト【おてつたび】御宿 由府両築の求人・旅バイトは「おてつたび」で! 由布院・湯の坪街道に面した全7室の小さな湯宿「由府両築」で、清掃業務のotetsutabi.com

── 高校の先生としてのスキルが活かせる場面はありましたか?
野田さん: 教員として教えていた数学や情報のスキルは、接客業においてはほぼ役に立ちませんでした(笑)。教員時代と接客業とでは求められるスキルが全く違いますからね。これまでは生徒を相手にする世界でしたが、旅館では「いらっしゃいませ、どういたしましょうか?」と180度異なる対応が求められます。接客は素人なので最初は苦労しましたが、現場の支配人やスタッフの皆さんがとても親切に教えてくれたので、徐々に慣れていきました。

ただ、思いがけないところで過去の経験が活きたんです。実は教員時代に学校の交流プログラムがあり、個人でもずっと韓国語を勉強していました。
由府両築ではお客様の約8割が韓国の方だったため、お出迎えやご案内の際に少し韓国語を使って説明をして差し上げると、ものすごく喜んでくださって。久しぶりに自分の培ってきた語学を実践で使うことができ、とても嬉しい瞬間でした。

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「洗う場所がない!?」由布院のディープな外湯巡りと、おてつたびがもたらした新趣味

── お手伝いの合間や、休日の過ごし方はいかがでしたか?
野田さん: 由布院はとにかく最高でしたね。金鱗湖を散策したり、街並みをのんびり歩き回ったりしていました。

なかでも一番印象深かったのは、地元の共同浴場(外湯)の文化です。地元の方が毎日入るような小さな公衆浴場がいくつもあり、旅行者も200円〜250円ほどで入らせてもらえる場所があります。

初めて行ったときは、シャワーもなければ、身体を洗うスペースすら見当たらなくて戸惑いました。でも、地元の方が「温泉のお湯を洗面器ですくって身体を洗い、お湯で流してそのまま湯船に浸かって出ていく」という入り方をしていて。それが本物の温泉文化なんだと感動しました。

実は滞在先のアパートにお風呂は付いていたのですが、私は一度もそのお風呂を使わず、毎日その素晴らしい外湯に通い詰めていました(笑)。

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── 2週間の滞在中、由布院や大分の観光も楽しまれたそうですね。
野田さん: そうですね。おてつたびを始めてから、現地で出会った仲間に影響されて「山登り」を始めたんですが、今回の滞在中にも近くの山へ登りに行きました。

以前に別の場所(志賀高原)でお手伝いをしたときには、雪の上を歩く「スノーシュー」の体験プログラムを見つけたんです。「これは面白そうだ」と、スノーシューを自分でAmazonで注文して宿に届けてもらい、休みの日に雪山を歩き回りました。

おてつたびをするようになって、そうやって偶然の出会いがどんどん広がって、今回も大分に行くことができました。数日間の旅行と違って、2週間じっくり滞在するからこそ、由布院のディープな外湯文化やその地域の本質を深く知ることができる。そうやってご縁が広がっていくことや、その土地の文化を知れることに、今はとにかく面白さを見出しています。

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旅行と無縁だった野田さんが北は北海道、南は鹿児島まで。写真は鹿児島・屋久島でのおてつたび

旅行に興味がなかった38年間。「行く場所が決まってから調べる」から、旅が新鮮でおもしろい

── 由布院での仕事を楽しみ、ディープな温泉に通い、山登りや大分観光といった新しい体験にまで次々と挑戦されている野田さんですが、実はおてつたびを始めるまでは、旅行にほとんど興味がなかったと伺いました。

野田さん: そうなんですよ。現役の教員時代は本当に旅をすることがなくて。日本国内で行ったことがある場所といえば、修学旅行の下見で行った3箇所くらい。仕事以外で遠出をした経験はほぼ皆無で、普段はテレビの旅行番組をただ眺めるだけの人生でした。

そんな私が、今では「次のおてつたび先はどこだろう」と全国のマップを眺めている。自分でも本当に不思議です。

── 旅行に馴染みがなかった野田さんが、なぜ、そこまでおてつたびの魅力に引き込まれたのでしょうか?

野田さん: 「ここに行ってみたい」と強いこだわりを持って計画する旅ではなくて、おてつたびに応募して、マッチングが決まった瞬間に初めて行く場所が決まる。そこから「さあ、どうやって行こう?」とスマホでルートを調べている時間そのものが、旅行をしてこなかった私にはとにかく新鮮で面白いんです。どれが一番安くいけるかとか、どう行ったら楽かとか、調べてるだけでも本当に楽しくて。

それに、実際に行ってみると、行く前はただの「行きたかった地域」だった場所が、自分にとってすごく身近な「また行きたい地域」に変わる。
そのルートを調べるワクワク感や、自分の中で地域が近くなっていく変化。そういう「偶然の出会い」が本当に面白いから、気がついたらこれほどのめり込んでいたんだと思います。またぜひ、大分にも行きたいと思います。

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